京都地方裁判所 昭和56年(わ)192号 判決 1981年4月22日
裁判所書記官
田中敬悟
1本籍
京都府竹野郡丹後町間人一九八六番地
住居
京都府竹野郡丹後町間人二一三〇番地の五
会社役員
相見政治
大正六年五月一八日生
2本店所在地
京都府竹野郡丹後町間人二一三〇番地の五
法人の名称
相政株式会社
代表者氏名
代表取締役 相見政治
右相見政治に対する所得税法違反、法人税法違反、相政株式会社に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官小野哲出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
被告人相見政治を懲役一年六月及び罰金四、〇〇〇万円に、被告会社相政株式会社を罰金七〇〇万円に処する。
被告人相見政治においてその罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。
被告人相見政治に対し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
1. 被告人は、京都府竹野郡丹後町間人二、一三〇番地の五において相見商店の名称でちりめんの製造販売業を営んでいたものであるが、所得税を免れようと企て、
第一 昭和五二年分の総所得金額は一億二、七六四万三、三八一円で、これに対する所得税額は七、九四〇万九、一〇〇円であったにもかかわらず、公表経理上売上金の一部を除外するほかたな卸商品の一部を除外するなどし、これによって得た資金を架空名義の定期預金にするなどして所得を秘匿した上、同五三年三月一五日京都府中郡峰山町字杉谷小字イバラ山一四七番地の一二所在の峰山税務署において、同税務署長に対し、同五二年分の総所得金額は二七二万四、三六二円で、これに対する所得税額は、一四万八、二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右年分の正規の所得税額七、九四〇万九、一〇〇円と右申告にかかる所得税額との差額七、九二六万九〇〇円を免れ
第二 昭和五三年分の総所得金額は二億三八万五、三四四円でこれに対する所得税額は一億三、三七九万七、六〇〇円であったにもかかわらず、前同様の不正の方法により所得を秘匿した上、同五四年三月一五日前記峰山税務署において、同税務署長に対し、同五三年分の総所得金額は四、一〇二万七、八七三円で、これに対する所得税額は一、八六〇万六、九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、右年分の正規の所得税額一億三、三七九万七、六〇〇円と右申告にかかる所得税額との差額一億一、五一九万七〇〇円を免れ
たものである。
2. 被告人相政株式会社は、京都府竹野郡丹後町間人二、一三〇番地の五に本店を置き、ちりめん製造販売業を営むもの、被告人相見政治は、右会社の代表取締役としてその業務全般を統轄しているものであるが、被告人相見政治は、右会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、昭和五四年一月四日から同年一二月三一日までの事業年度における右会社の所得金額は一億四、一三六万三、四六〇円で、これに対する法人税額は五、五三六万四、一〇〇円であったにもかかわらず、公表経理上売上金の一部を除外するほか、たな卸商品を除外するなどし、これによって得た資金を架空名義の定期預金として留保するなどして所得を秘匿した上、昭和五五年二月一六日京都府中郡峰山町字杉谷小字イバラ山一四七番地の一二所在の峰山税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の右会社の所得金額は五、四九八万五、六三七円で、これに対する法人税額は二、〇八一万九、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の手段により、右事業年度の正規の法人税額五、五三六万四、一〇〇円との差額三、四五四万五、〇〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
判事各事実について、被告人の当公判廷における供述のほか、記録中の証拠等関係カード(検察官請求分)に記載されている次の番号の各証拠
判示事実全部について
一、番号106
判示事実中昭和五二年分の所得税をほ脱した事実について
一、番号3、6、37、38、49、51、75、80、96、100、101、102
判示事実中昭和五三年分の所得税をほ脱した事実について
一、番号4、7、37、38、49、51、75、80、96、100、101、102、
判示事実中昭和五四年度の法人税をほ脱した事実について
一、番号5、8、54、59、81、82、85、87、89、104、105
(法令の適用)
被告人相見政治の、(1)昭和五二年分の所得税を不正に免れた所為及び(2)同五三年分の所得税を不正に免れた所為はいずれも所得税法二三八条一項・二項に、(3)同五四年度の法人税を不正に免れた所為は法人税法一五九条一項・二項に該当するところ、情状により各所定刑中、(1)、(2)の罪について、それぞれ懲役刑及び所得税法二三八条二項に定める罰金刑の併科を、(3)の罪については懲役刑及び法人税法一五九条二項に定める罰金刑の併科を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い(2)の罪の懲役刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人相見政治を懲役一年六月及び罰金四、〇〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
被告会社相政株式会社が昭和五四年度の法人税を不正に免れた事実は、法人税法一六四条一項、一五九条一項・二項に該当するので、情状により所定刑中同法一五九条二項に定める罰金刑を選択し、その所定金額の範囲内で被者会社を罰金七〇〇万円に処することとする。
(量刑の理由)
被告人らの本件各所為は、国家財政が逼迫し、国民の脱税犯に対する非難も高まっている現在において、三年度連続して、取引先や取引銀行をも抱き込んで、計画的に、所得税ないし法人税をほ脱し(昭和五四年一月四日設立された被告会社相政株式会社も、相見商店が税金対策のため法人成りしたものであって、実質的には被告人相見政治の個人企業である。)、ほ脱税額も、昭和五二年分七、九二六万九〇〇円、同五三年分一億一、五一九万七〇〇円、同五四年分三、四五四万五、〇〇〇円、総計二億二、八九九万六、六〇〇円に及び、ほ脱率も、それぞれ九九・八%、八六・一%、六二・四%と非常に高率となっているものであって、悪質重大なものであるといわざるをえないが、他方、被告人らが本件各所為に及んだのは、ちりめん製造販売業は好不況の波が大きく、昔から二代と続かないリスクの多い商売であるといわれていることから、将来の不況にも耐えられるよう裏資金を保留しておきたかったこと、及び昭和五一年、五二年に計約六、五〇〇万円の貸倒損が発生したという自店の経験から、取引先から不渡りを受けても、仕入先や下請先に迷惑のかからないように商店ないし会社に厚みをつけておきたかったことなどがその主たる理由であって、あくどい個人的蓄財や享楽のために利益をはかったものではないこと、昭和五五年一二月一七日各修正申告をなし、同月一九日各本税を納付済みであること、被告人相見政治の改悛の情も顕著であり、重加算税等についても納付する予定であること等被告人らに有利な情状もあるので、それらの事情を総合して考慮したうえ、主文のとおり量刑した次第である。
(裁判官 吉田治正)